ヴィクトリア時代(1860年頃)のシルバープレート製ウォータージャグです。胴部全体に施された花模様のエンボス装飾と、繊細なスクロール文様の彫刻が調和し、華やかさと気品を兼ね備えています。両側に配されたカルトゥーシュ(紋章やイニシャルを刻むためのスペース)は、当時の貴族的嗜好を映し出し、個人の家紋やイニシャルが刻まれることで、その持ち主の存在を誇示する役割を果たしました。
特に目を引くのは、ハンドルの付け根に施された神話的な面貌装飾(フェイスマスク)です。ヴィクトリア期に好まれた象徴的なモチーフであり、装飾芸術としての完成度を高めています。
このようなウォータージャグは、アフタヌーンティーや晩餐会において、冷水やレモネードを注ぐために用いられました。銀器特有の輝きと優雅な造形は、食卓を彩るだけでなく、使用する家の格式を示す重要な役割を担っていたのです。
約160年を経た現在、表面にはごくわずかな摩耗や、ブリタニアメタル※特有の黒ずみが見られ、輝きの中に落ち着いた陰影を与えています。またベース部分にはわずかなガタつきがありますが、通常のご使用では気にならない程度だと思います。これらはいずれもアンティークならではの個性であり、時を超えて受け継がれてきた真実の風合いを物語っています。
※当時よく銀器のベースに用いられた金属
実用品としてティータイムに清涼感を添えるのはもちろん、インテリアに飾れば空間を格調高く演出してくれる、歴史と美を併せ持つ一品です。
カルトゥーシュ とは・・
カルトゥーシュとは、銀器やガラス器、家具などに見られる楕円形や盾形の装飾枠のことを指します。
このスペースは単なる装飾ではなく、持ち主のイニシャルや家紋、記念の日付、モットーなどを彫刻するための場所として設けられました。
ヴィクトリア時代からエドワード朝にかけての英国では、銀器やカットグラスが結婚祝い・誕生日・社交上の贈答に多く用いられ、カルトゥーシュに名前を刻むことで贈答品はより個人的で特別な意味を持ちました。当時の上流階級の暮らしを象徴する意匠であり、家紋やイニシャルを刻むことは家の格式やアイデンティティを示す役割も果たしました。
こうした背景から、カルトゥーシュは単なる装飾枠ではなく、贈答品や家伝品に「魂」を与える象徴的なスペースといえるでしょう。
年代 1860年頃
材質 シルバープレート(E.P.B.M.)
サイズ 16�傳�11�僉々發�/25.5��
容量 720ml(口までいっぱいで825ml)
状態 AA